こんにちは。
今日はレガシー効果、というものについてお話ししていきたいと思います。
みなさんは貯金をしていますか?
あるいは保険をかけたり、株を買ったり、不動産を買ったり、未来に向けて色々なものを残そうとしているかと思います。
そしてそれは体でも同じことが言えます。
ただ、それはお金を稼ぐことではなく、食生活でためることが出来るのです。
皆さんは自分の体にいい貯金をしていますか? 悪い貯金をしていますか?
レガシー効果
さて、今回ご紹介するのはレガシー効果と呼ばれるものです。
レガシーとは日本語で遺産を意味します。
つまり、「あること」をすることでタイトルにもある通り「10年後に起こること」に差がつきますよ、という話です。
その「あること」とは糖尿病発覚時の厳格な血糖コントロール。
「10年後に起こること」とは心筋梗塞のリスク、そして死亡率などです。
これはイギリスで行われたUKPDS(英国前向き糖尿病研究)と呼ばれる10年間の介入研究と10年の追跡調査によるものです。
研究の内容は当初、新たに2型糖尿病と診断された患者を2つのグループに分け10年間の介入試験をしています。
一方のグループはより「厳格な血糖管理」を行い(強化療法群)、もう一方のグループには従来通りの「緩やかな血糖管理」を行いました(従来療法群)。
試験期間中のHbA1cは強化療法群で7.0%、従来療法群では7.9%と強化療法群の方が0.9%優れていました。
そして10年が経ちました。
従来療法群と比べて強化療法群では、網膜症や腎症などの細小血管障害の発生率はそれぞれ12%と25%低く抑えられました。
心筋梗塞などの大血管障害の発症や全体での死亡率は16%と6%と低下傾向はありました。しかし、統計的には明らかなものではありませんでした。
つまり、10年間も強化的な治療を行ったのに、データとしていわゆる有意差があるような効果が証明されなかったのです。
10年後の追跡調査
ただ、それで終わりではもったいないため、追跡調査が行われました。
分けられた2つのグループは、その後は特別な区別をせず通常の治療に戻しました。
飲み薬やインスリンなどの治療法は主治医と患者が自由に決めることができました。
その結果、追加の観察研究を始めた1年後には両グループ共にHbA1cは7.1%となり、その差はほとんどなくなりました。
あーあ、という感じですね。
強化療法群の人達はせっかく下げたHbA1cの値が標準治療群の人達と同じになってしまいました。
ですが、観察ですので余計なことはできません。
研究チームはその後も観察を続けました。
そして、10年後、ある明らかな差が見られました。
当初2グループに分けられたチームのうち、各種合併症、死亡率などが明らかに強化療法群の方が低かったのです。
- 細小血管症24%の低下
- 心筋梗塞15%の低下
- 糖尿病関連死17%の低下
- 総死亡率13%の低下
このように、どの症状に関しても明らかに強化療法群の方が発症率が低かったことが明らかになりました。
そして、それは統計学的にもきちんと有意差がとれると推論できるものでした。
この研究において言えることは、糖尿病になったとしても出来る限り早い時期から良好な血糖コントロールを行えば、その後の心筋梗塞や死亡のリスクが抑えられることを意味します。
これの結果を踏まえ、研究論文の著者であるHolmanはこれを「レガシー効果」と呼んだのです。
1型糖尿病でも同じ効果が
UKPDSはイギリスで行われた2型糖尿病患者を対象に行われた実験でしたが、アメリカで行われた同じような実験では1型糖尿病患者にも効果があることがわかっています。
DCCT/EDIC研究と呼ばれるその実験はほぼイギリスで行われた実験とほぼ同じような内容で、1440人の1型糖尿病を対象に9年間の介入研究と11年後の観察研究によるものです。
ちなみに
- DCCTはDiabetes Control and Complications Trial
- EDICは Epidermiology of Diabetes Interventions and Complications
の略で、
日本語に直すと
- DCCTは「糖尿病のコントロールと合併症の試験」
- EDICは「糖尿病の疫学介入と合併症」
となります(Google翻訳による)。
まず、DCCT研究によって、イギリスと同じく強化療法群と従来治療群にわけて9年間の介入研究をおこない、その後EDIC研究によって11年間における追跡調査を行いました。
そうしたところ、合併症などの発症率が強化療法群の方が低かったのです。
糖尿病合併症の発症率は
- 網膜症で60%
- 腎症では53~86%
- 大血管症(心筋梗塞、脳卒中など)では42~57%
と、顕著に強化療法群の方が低かったのです。
ちなみにHbA1cの値はどちらの治療群も11年の間に8%と同じ値に落ち着いていました。
このことからこちらの研究チームではレガシー効果のことを「メタボリック・メモリー」代謝の記憶と呼んでいました。
レガシー効果は科学的に説明がついていない? でも…
これら2つの実験研究において、それぞれレガシー効果、メタボリック・メモリーがなぜ起こるのか、ということは科学的にはまだ説明がついていないとされていました。
ですが、個人的な意見で言わせてもらえればこれは当然の結果ではないかと思います。
というのも、これって単純に遺産を積んだのではなくて、「高血糖の記憶」を積まなかったからではないかと思うのです。
遺産を積む、高血糖の記憶を積まない、これはどちらも全く同じことを言っています。
つまりAGEsの生成をどれだけ抑え込めているか、それに尽きると思うのです。
これは単純に視点の問題です。
- 血糖コントロールを厳格に行っていた(遺産を積んでいた)からAGEsが生まれなかった。
- 血糖コントロールを厳格に行っていたから、AGEsが生まれなかった(高血糖の記憶を積まなかった)
これだけの話かなと思います。
もう一つ言わせてもらうとすれば、これは糖尿病初期のころから云々ではなく、普段の日常生活を日々過ごしているときから言えることでもある、ということです。
レガシー効果は何も糖尿病になってからじゃないと効果を発揮しないものではなく、日常何の病気にかかっていない時であってもドカ食いをしないであるとか、おにぎりにから揚げのような高糖質、高脂質の食事を摂らないであるなど、細かな気遣いが糖尿病、ひいてはそこから起こる合併症の予防につながるのではと思います。
ちなみにAGEsについて知らないかたは以下をどうぞ
関連記事
終末糖化産物っていう無茶苦茶怖い響き。AGESについて知っておこう
このレガシー効果についてですが、おそらく強化療法群の人達をもう10年追い続けると、おそらく標準治療群の人達と同じくらいの死亡率、合併症の発症率になるのではないかと思います。
どのタイミングからでもいいので遅いということはありません。
ぜひ今から血糖コントロールを始めましょう。
まとめ
高血糖の記憶、レガシー効果、どれも今の食生活、今の自分の歴史が未来の自分に向けての負の遺産、あるいは正の遺産を残すかということがどれだけ大事なことかわかるかと思います。
高糖質の食生活を送っていれば高血糖の記憶が、糖質制限など緩やかでもいいので血糖コントロールに努めればレガシー効果が、それぞれ積みあがっていきます。
ただ、完璧な食生活を送り続けるというのはかなり厳しく、できない人もたくさんいると思います。
ですので、毎日毎食とは思わずに、気づいたとき、やれる時でいいので血糖コントロールを意識してみてはいかがでしょうか。
それだけでも気づかない遺産を未来に向けて残していることになるのですから。
皆さんが健康でありますように。
本日もご覧いただきありがとうございました。